(小説)海野すずりちゃんへ寄贈

オリジナルキャラクターを作ったということで、小説をプレゼントさせていただきました。本人がとても喜んでくれたので、こちらでもアップしておきます。

https://twitter.com/umiumisuu3u/status/1120377809560408065

小説

青い空に真っ白なクラゲがゆらゆらと無気力に揺れている。特に何も異常はない。屋上でただ二人。ぼんやりと眺めているだけのこと。

「今日は暑いね」

少し汗ばんだペットボトルがペコンと変な音をたてて、小さな唇が「ほぅ」と、小さな息を吐いた。

「今日は暑いね」

オウム返しな言葉が隣から聞こえてくる。
透子は小さな唇へとまたペットボトルの中身が吸い込まれていくのを横目に、空のクラゲをぼんやりと追いかけていた。ぶらぶらと動かした足は、まるで空の海を泳いでいるような感覚を与えてくるが、それはただの錯覚に過ぎない。

「まだ夏になっていないのにね」

オウム返しの返答にしては遅い返事を透子の口が吐き出した。さぁっと、クラゲが干からびそうなほど空に乾いた風が流れ込む。初夏の兆しが見えた空は、どことなく埃っぽくて大陸からの黄色い砂塵に目が霞んでしまいそうだった。
屋上に少女が二人。
肩を並べて座るそこは、静寂と清涼が支配している。

「それ、美味しい?」

右に座る少女を覗き込むように、透子は首を傾げた。ふわりと柔らかな風が動いて、青いマニキュアを塗った指が汗ばんだペットボトルの雫を撫でる。夏に向けて発売された新しいドリンクの味はわからない。無言で飲んでいた彼女の唇からは、ほんの少しだけ甘い香りがした、程度の情報しか把握できない。

「もうすぐ夏だね」

どこからともなく一羽の蝶がふわふわと漂ってきて、透子の髪にゆるく結ばれたリボンの先で止まる。風にさらわれた髪につられてリボンも揺れたが、蝶はその先でじっと過ごしていた。

「あ、蝶!」
「うん。なんだか懐かれちゃったみたい」

ペットボトル片手に好奇心を見せた少女の瞳の中で蝶の羽が軽く瞬く。開いたり閉じたり、数回ゆっくりと繰り返したが、やはり飛び立つことはしないらしい。

「もうすぐ夏だね」

んー、と。背伸びをするように、少女は青空に浮かぶクラゲへと両手を広げた。

「あの雲、クラゲみたい」
「わたしもそう思ってた」

クスクスと透子は笑う。彼女の隣は心地いい。見える視界のすべてが色づいて、自然と心が穏やかになれるからかもしれない。

「千津瑠ちゃん」

耳に囁く小さな声に、クラゲへと両手を広げていた少女が振り返る。その時、蝶がふわりと舞って、二人の中央でひらひらと上下に揺れたあと、数回周囲を旋回してクラゲの方角へ飛んでいく。

「千津瑠ちゃん」

また、今度は蝶を追いかけるように透子の身体がふわりと浮いた。
足元に影は、ない。
左頬のほくろを少しあげて優しく微笑む透子の双眼に、甘い香りをまとった少女が写り込む。

「ずっと千津瑠ちゃんの隣にいてもいい?」

少女は何も答えない。
その代わりに、左隣に落ち着いた透子の足が空の海に溶けるようにぼんやりと揺らいでいる。雲のクラゲはもういない。形を変えて気ままな白のまま空の海に漂っている。
束の間の共有。
ペットボトルの汗が伝って、ぽたりと小さな海を作っていた。

《完》

あとがき

すずりちゃんといえば、水色。透明感のある絵や文章がすごくきれいで、繊細で大好きなのですが、今回はオリジナルキャラクターを作られたということで、思わず筆をはしらせた次第です。突撃で送ったのに、喜んでもらえてハッピー!やっぱり反応をもらえると創作意欲が刺激されますね。

そういえば、すずりちゃんと一緒に創った作品含めて今まで様々な人とコラボ作品をつくったきたけど、どこかにまとめて残したりしていないような気がする。Twitterは人の目に触れる機会が多いから作品を発表する場所としてすごく重宝しているのだけど、反面、すぐに時間の波にさらわれていってしまうから記憶に残りにくいのが難点。
せっかく生み出した作品たちをやはり残していく場所が欲しいですよね。
その他創作物ページにでもぞぞんって入れられるようにしましょうかね。出来たらまた報告はします。