涙雨の温もり

しとしとと小雨が降り続いている。緑の森も濃厚な息を吐き出すように白濁の色に染まっていた。

「今日はよく冷えますね。」

優しい声が熱に溶けて消える。

「そこにいては風邪を召されますよ。」

肩にそっとかけられた温もりに、思わず涙が零れ落ちた。


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ツイッターの「#140文字小説」に投稿した内容を深掘りするコーナー

タイトル『涙雨の温もり』

ある肌寒い日。
森の奥にたつ屋敷の中で、貴女は窓の外を悲しそうに見つめていました。
両親が帰ってこないのか、彼がどこかへ去ってしまったのか、大事な友人の安否が気がかりなのか、その泣きたくなるほどの胸の内は、あなたのことを先ほどから心配そうに見つめている執事にはわかりません。
けれど、真意はどうだっていいのです。

何時間もその場所から外を眺めたまま動こうとしない貴女のために、彼は何ができるのだろうと考えて、考えて、貴女に無理強いもせず、傍で温かく見守り、支えていこうと誓ったのです。

言葉数の少ない彼ですが、その思いは寒さに身を縮める貴女の肩にそっとかけられた衣が教えてくれました。

そんな物語を想像しながら書いたものです。
140文字という限られた言葉の中に、ここまでの世界観がつめこめたかどうかはわかりませんが、どこか切ない雰囲気を感じてもらえたら嬉しいです。