忘却の劣情

しとしとと雨のカーテンに包まれた先で浮かぶ黒い衣。目深にかぶったフードの中の顔は見えない。
だが、冷笑に歪んだその唇がわずかに楽しみを含ませた。

「やっと見つけた。」

灰色に包まれた世界で、男は一人。
眼下に広がる地上の端に、古い過去の記憶がよみがえる。

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ツイッターの「#140文字小説」に投稿した内容を深掘りするコーナー

タイトル『忘却の劣情』

伊勢湾台風の再来かと言われている台風が近づいているせいか、どんよりとした暗い天気が続いていますね。
そんな中、少しでもこの天気を愉しめればと作成してみました。

情景は雨が降り続く灰色の世界で、電波塔(東京タワーとか通天閣とか?)の先端に立っている一人の男の行動を描いたものです。都会ですね。
いや、人によってはどこかの塔の先端であったり、城や教会など西洋のイメージを持たれた方もいらっしゃると思います。逆に、マンションの屋上や電柱などもっと人の日常生活に近い場所を想像した方もいらっしゃるかもしれませんね。

想像する場所は自由です。正解はありません。

男は黒いマントを頭からすっぽりとかぶっているので顔はわかりませんが、少しだけ見える口元でその表情をはかり知ることができます。
冷笑に歪んでいるのは憎しみなのか、元から彼に貼り付けられた笑顔の形なのか・・・いずれにせよ、男は何かを見つけてその唇を楽しそうにゆがめて笑います。

見つけたのは、ずっと探し求めていたもの。

それは彼の過去の記憶に絡んだ大事なもの。

古い記憶はいい思い出なのか、悪い思い出なのかそれは今はまだわかりません。
彼の胸の内に隠された感情や思考は、目深にかぶったフードと雨に隠されて見えないのです。

探し求めていたのは何なのか。

それは過去の記憶に出てくる人なのか、物なのか。

最初「」の中の言葉は「もうすぐ会える。」でした。
私の中ではこれからの運命を共にする少女を見つけた男のある一片を描こうと思っていたのですが、最後の最後で「やっと見つけた。」と現在の形に変更。

彼が結局、そのような格好をしてまで探し求めたもの。たどり着いたものはなんなのか。
読み手である皆様の妄想や想像にお任せしようと思ったからです。

雨の日曜日、頭の中だけでも別世界を楽しんでいただければ嬉しいです。