晩秋の望郷

風がホホをなぞる。
世界はこんなにも美しいと、眼下に広がる光景をみて、記憶の片隅に眠っていた横顔を思い出した。

「大きくなったら、一緒にこの町を出よう。」

今はもう誰もこの町にはいない。
何も疑っていなかったあの頃は遠く、葉の色でさえ赤く色づくほどの恋をしていた。

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ツイッターの「#140文字小説」に投稿した内容を深掘りするコーナー

タイトル『晩秋の望郷』

こんばんは、皐月うしこです。

切ない悲恋を妄想してみました。

小さなころ。
まだ恋人だとか、両思いだとか、特別な存在だとか、そういうものに気が付く前の約束。
二人だけの思い出。
海沿いの小さな町を見下ろせる小高い丘の上。(棚田でもいいかもしれません。)
秋の夕日が海に反射して、紅葉に色づいた山が燃えるように赤く色づく中、大好きな人との未来への約束に、思わず顔が赤くなる。何も疑っていなかった純粋な時代。
世界が残酷だと知りもしないほど幼かったころ。

大好きな人と囁かな夢を見た。

そんなことを大人になってから思い出す。
過去と対峙するため、久しぶりに故郷へ足を運んだ主人公。
今ではもう、誰もいなくなってしまった悲しい町の残骸を見下ろしながら、残酷な世界の美しさに、それでも色あせない風景に、思わず唇をかみしめたことでしょう。

自分だけが生き残ってしまったのか、それとも生き別れてしまったのか。
主人公が旅をする目的は何なのか。
ファンタジー要素は140文字小説の中には埋め込めなかったので、現代小説として読まれた方もいらっしゃるかもしれませんね。

叶わない恋というか、行き場を見失った心はつらいです。
誰かが、そっと手を差し伸べてくれることを願っています。

そんなイメージで仕上げたのですが、いかがでしょうか。
ああ、秋は切ないイメージばかりがわいてきて、とても心がキューッとします。

紅葉の季節ですし、何かこう、切ない秋を感じさせる話を書いてみたかったのですが、安直に「恋」というフレーズを使ってしまいましたね。でも、たまにはストレートに表現するのも悪くないかもしれません。
とはいえ、切ない秋ばかりではないはずなので、楽しい秋、ハッピーエンドの秋も書いていきたいと思っています。