還る場所

色褪せたロープで仕切られた前に、一人の男が立っていた。目の前の土地では、禿げた雑草が住居範囲をどんどん侵食しようとしている。

「まだ、ここにいたんだな。」

染み込んでいく秋雨の匂いが、肩にずっと寄りかかっていたのか。彼が去った後の乾いた地面が涙をこぼしたように見えた。

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ツイッターの「#140文字小説」に投稿した内容を深掘りするコーナー

タイトル『還る場所』

こんにちは、皐月うしこです。
Twitterの方で公開させていただいた140文字小説ですが、深掘りコーナーが遅くなってしまいすみません。

さて、この小説は雨の降っている日に書いたものです。
私のブログなどを読んでくださっている方はご存知かもしれませんが、最近雨が降れば「しとしと」ばかり連呼していたので、なんとか擬音語を使わずに文章をつくれないものかと考えて出来上がりました。

秋雨ってどこか寂しい雰囲気が漂っていませんか?

昔、そこには温かな家が建っていました。
火事で燃えてしまったのか、地震で失ったのか、事件に巻き込まれたのか、取り壊されてしまったのか、それは定かではありません。今はもう、更地がそこに存在しているだけで、うっすらと雑草たちが広がっています。
誰も侵入できないようにロープがはられていて、そのロープの前に男が一人立っています。
ロープは越えようと思えば、簡単に超えられる。
けれど、色あせるほど長年放置されたその場所に、新しい家が建つことも、子供たちが侵入して遊んだ形跡もないのです。

男は警察官。それも退職した警察官。年齢は問いませんが、現役じゃないといい。
彼は愛する女性を失いました。
優しくて明るくて、いつも彼のことを心から思っていました。

「また、来たの?」

「まだ、ここにいたんだな。」

「あなたがそんな顔をしているうちは、安心していけないわ。」

そんな感じで見えないし、聞こえない会話があったかもしれません。

しばらく、男の肩を秋の冷たい雨が濡らしていましたが、やがて男は静かにそっと立ち去ります。
唯一雨に濡れなかったのは、彼が立っていた場所。
灰色のアスファルト。

そして、雨はその灰色のアスファルトの上にポツリ、ポツリと落ちていきます。
まるで、彼の孤独な後ろ姿を悲しむ彼女の涙のように。

秋はどこかしら孤独なイメージがありますね。
特に雨の日は音が吸収されて静かですし、冷たい空気が肌に染みてくるせいでもあるでしょう。

いつか彼がこの事件か難解を解決し、痛む記憶から克服できることを願っています。笑顔で彼女の元を訪れた時、きっと雨も晴れることでしょう。

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