薄桜鬼10周年記念 その壱「土方歳三」

はじめに

ここでは、オトメイト様より発売中の「薄桜鬼」をもとに小説を作成しています。アニメ版薄桜鬼やファンソフトは未playなため原作寄りです。
版権の二次小説に関しては著作権はゲーム会社にありますが、文章及び、表現内容に関しては当サイト管理者である皐月うしこにあります。リクエスト等は受け付けてません、キャラ違い等の苦情も一切受け付けませんので、ご理解下さい。
基本的に千鶴総受けですが、甘さは濃くありませんので、濃厚な内容をお求めのかたは戻られることをオススメします。

名前変換もありません。

とにかく、趣味の範囲で作成してますので、ご理解お願いします。

小説:屯所預りの少女

視点: 土方 歳三

あいつが新撰組の屯所預かりになってから早半年。
少し賑やかになった気がする。──いや、騒がしくなった。
血生臭い毎日を送っているせいか、いつもどこか殺伐としていた屯所内がたった一人の小娘が来ただけでこうも変わるものなのか?

そう思いながらも、目の前に山積みにされた文に目を通す。

俺は、近藤さんを。
この新撰組をもっと高みに連れていく目標がある。鬼の副長と呼ばれる俺までが振り回されるわけにはいかない。
邪念を振り払うかのように小さく首を振れば、ひとりでに息がもれた。

「おい!てめぇら。ちったぁ静かにできねぇのか!!?」

もう我慢ならねぇと襖をあけて声を張り上げる。

「す…すみませんっっ」

大きく肩を震わせて、体を縮ませながら謝るこいつは、雪村 千鶴。

「勝手に部屋から出るなといったはずだが?」

騒ぎの原因は、やはりこいつか。
背の高さが違うから自然に見下ろす形になるのだが、何故か涙目になりながら千鶴は、大きく目を見開いた。

「あ~。土方さん、いけませんよ。女の子を泣かせちゃ」
「総司」

いつから居たのか、笑顔のまま総司が近づいてくる。総司のことだ。最初から見てやがったに違いない。

「ちっ」

俺の舌打ちが聞こえたのだろうか、千鶴が大げさに肩を震わせるのがわかる。
が、

「総司。てめぇは、何してやがる」

頭を撫でやりながら、鬼副長がどうこうなどと千鶴に吹き込む総司の腕は、しっかりとその体に巻き付いている。そのことを問いただしただけなのに、

「え~。何いってるんですかぁ。鬼副長が泣かせるから慰めてあげてるんですよ」

と、きた。…ほぉ。大した度胸じゃねぇか。

「偉く気に入ってるじゃねぇか」

皮肉をなげかけてやる。総司が千鶴をただ”大人しく見張る”とは、初めから思っていなかった。からかうというよりか、こいつの場合、ただの暇潰しなんだろうが。

「誰かさんの小姓になってれば、わざわざ僕が慰める必要はないんですけどねぇ」

俺に押し付ける気か?
そう思っている所に

「副長。雪村が部屋におりません」
「斎藤か」

いいところに来た。
総司相手じゃ話しにならねぇ。

「こいつを部屋に返してやれ」

俺がそう言えば、斎藤は総司の腕の中に千鶴の姿を確認して小さく頭を下げた。

「行くぞ」
「えっ?あっ…はぃ。失礼します」

斎藤が総司の腕の中にいた千鶴を引っ張って連れていく。

「え~。もうちょっと千鶴ちゃんと遊びたかったのにぃ」

にこやかに手をふっていた総司が、二人の姿が消えると同時に、「で、どうするんですか。あのこ」と、訪ねてくる。

「まだ、外に出してやるわけにはいかねぇ」

ため息混じりに答えてやれば、総司は意外だという顔をむけてくる。

「何だ。言いてぇことがあるんなら口に出せ」
「殺さなくていいんですか?」

…こいつは。まったくもって、手におえねぇ。

「殺さねぇよ」

冗談なんだか本気なんだか。笑いながら残念だと背を向ける総司を見送った。確かに、新撰組にとって雪村千鶴は必要であって必要でない。父親である綱道に関しては多少の情報は、手に入ってはいるんだが、さすがに、半年も閉じ込めるのは可哀想か。
正直、男ばかりの屯所から抜け出そうとすらしねぇのは見上げた根性だと思った。それどころか平助なんかはすっかり気を許してやがる。

「はぁー」

頭をかきながら、息を吐き出せば、「おぉ。トシ」と、近藤さんが近づいてくる。
どうやら、部屋に入るのも忘れて考え込んでいたようだ。

「珍しいな」

嬉しそうな声をあげる近藤さんの手にある菓子をみれば、またかと思う。

「菓子でも食べんか?」

ほら。
正しく”仕事の邪魔”をしにきた近藤さんに苦笑しつつも、俺は頷いた。

「お…おう」
「誘っておいて、なんだよ」

狼狽えた近藤さんに、思わず頬がゆるむ。

「いやぁ。トシが最近、素直に言うことを聞くようになったなぁ…と」

感心、感心と一人で首をたてにふる近藤さんが、「これも雪村くんのおかげだな」と、続ける。
なんだそりゃ?と眉を寄せた俺に、「なぁ、トシ」と、近藤さんは腰をおろした。

「雪村くんのことなんだが…」

本題は、それか。

「わかってるよ。いつまでも閉じ込めておくつもりはねぇ」
「そうか。ならば早速、明日から隊士たちに同行させてみたらどうだ」
「まだ、早ぇよ」

長州の動きが怪しい今、わざわざ危険にさらしてやる必要もねぇ。

「総司と平助にまかせれば安心だと思うが」

近藤さんには、逆らえねぇ。はぁと息を吐き出して、わかったと頷く俺に近藤さんは嬉しそうに笑う。平助のみならず、近藤さんまでも雪村千鶴に気を許す…か。
いや、近藤さんは元よりああいう性格だ。
だから、俺が余計に気を張っていればいいんだが。近藤さんが帰ったあとも、俺は一人で考え込んでいた。あいつは、確かに人懐こくて従順だ。疑うこともしなければ嫌な顔ひとつしねぇ。

「…って。俺は、何を考えてやがる」

さっきからどうも集中できねぇ。
怯えた顔をさせちまったからなのか、総司の態度も気になったが斎藤が手を引いて連れ帰ったことにも驚いた。

「…やべぇな」

このままじゃ、隊規云々どころでは済まなくなりそうだ。

「はぁ」

額を押さえれば、「土方さん」と呼ぶ千鶴の顔が浮かんだ。

「っ!?」

これは、ますますやべぇな。
あいつのことばかり考えるわけには…この俺までもが振り回される訳にはいかねぇ。
恐らくは、ずっと屯所にいさせたのが原因だろう。外に出してやれば、俺も少しは気にならずにすむはずだ。
そう一人納得して頷く。まだ年端もいかない小娘相手に鬼副長と呼ばれる俺が甘い顔をするわけには、いかねぇ。
だが、多少は許してやるべきだろう。
気がつけば、すでに屯所内が寝静まっていた。
時間がたっていたことに驚いて顔をあげれば、目の前から全く減っていない文が音をたてて崩れる。

「疲れてるのかもな」

きっとそうだ。
そうに違いない。
とりあえず体を休めれば、大丈夫だ。

──何が。

「はぁ。まいったな」

どうやら今夜からは、ゆっくり眠れそうにねぇ。

《完》

あとがき

これは、今から十年ほど前に書いた小説になります。まだ右も左もわからずとりあえず書いてみたかったままに書きなぐったもの。なんというか、色々とつたないし、今の作風とは全然違いますね。笑
薄桜鬼も一時期はまって書いていたのですが、まあ少しでも退屈しのぎとなれば幸いです。