小説『ミトドケビト』

こんにちは、皐月うしこです。
なんだか気分がどんよりと落ち込んでいます。もういっそのことダークな闇小説書いちゃえと思いましたので、書いちゃいました。SFファンタジーに突入しそうなざっくり感。たまにはいいですね。

小説

『ミトドケビト』

突然、空から降ってきた無数の星たちは私たちの頭上を飛び越えて、地平線の端で大きな爆発を起こした。その瞬間、海の水は枯れ、風はぴたりとやみ。耳鳴りがするほどの無音が周囲を一斉に包み込む。
誰もが息を止め、神経が研ぎ澄まされていくのを感じていた。
ついに来たのだ。
何年も囁かれていた今日という日は、間違いなく、これからの時代を塗り替える歴史となるだろう。

「きた」

誰かが言った。その言葉通り、逆流してきた風が私の全身にぶつかり始める。小石や葉っぱを無作為に投げ込みながら、風は私の体中に無数の切り傷を与えてくる。痛いとか、怖いとか、そういう感情はどこにもなかった。一言でいえば困惑。理由はわかっているのに、与えられる現実に脳が追い付いてこない。
混乱に支配され始めた空気が、人々の顔を蒼白に、そして倒錯に持ち込んでいく。

「終わる」

その声がもうすべてだった。
この世はきっとなくなってしまうのだろう。何年も前から学んできた。
いつかこの星が滅びる日は、いつかではなく、正確な時間も場所も被害の大きさも何もかもが決まっていた。私たち「最後の世代」は選び抜かれた人類。生き残ることを義務とされた星の見届け人。

「早く、のれ」

今日のために各地域に用意された宇宙への脱出ポット。乗り込み、スイッチを起動させると宇宙にある巨大センターに集約される仕組みをもっているらしい。乗り込む予定人数は事前に登録され、顔認証で入ることが出来る。逆に言えば、登録されなかった人はこの星と運命を共にすることが決まっていた。
わかっている。星の終わりだ。
全員が助かるなど、誰も思っていない。最初から乗れるのは重要な人物をのぞき、年齢も性別も性格も成績も何もかもが熟慮されて決められている。生まれた時から聞いてきた。学んできた。不思議に思ったことも、疑問に思ったこともない。生まれ育った場所も、共に過ごしてきた人たちもいつかは消える存在だということを。

当たり前だと思っていた。

だからこそ、この星と運命を共にする人々は、隕石の予測地点に集まり爆風となったのだ。私たち、見届けるものを残して。

私は脱出ポッドに乗り込みながら、最後の風を感じていた。感傷は何もない。
ただ、来るべき日が来ただけのこと。それが予想以上の衝撃だっただけのこと。
私は、透明のガラス越しに映る青いガラス玉が、徐々に輝きを失っていくのを眺めながら、ただ静かに深い息を吐き出した。《完》

終末について

定期的にこの世の終わり的なものを妄想して書いているような気がしますが、私の小説とかも多いですね、ひとつの時代が終わって新しい時代に突入するようなお話。これは短編で終わらせているのでここまでのお話ですが、長編に突入させようと思ったら確実にSFになる内容です。どうしたってファンタジーにしかつなげることのできない私の妄想力。
今回は、そういう環境で育ってきたので未来はそうなるものだと思っていた主人公が、現実を目の当たりにした時に、誰も教えてくれなかった感情をもったことに「ん?」となっているよな、なっていないような、そういう曖昧なものを表現しています。たまにはこういうのもよいのではないでしょうか。

Youtube

朗読してみました

今回もViva Video様の力をお借りして、朗読をしました。
そしてYoutube内のタイトルというか、動画のタイトルをうっかり「ミトドケビト」ではなく「ミトドケニン」にしてしまいました。ミトドケニンって響きが一気に想像と違うものになるのですが、まあ、しょうがない。今更一から作り直すほどの労力がないので、その辺はいつものごとく温かな眼差しで微笑んでくださると嬉しいです。