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短編「真実の愛を閉じ込めて」

概要

2018年09月にファンサイトCienで公開した短編小説。

真実の愛を閉じ込めて

読み:しんじつのあいをとじこめて
公開日:2018/09/23
ジャンル:現代
文字数:約1400字
読了時間:約2分
タグ:めっちゃ短い/さくっと読める

本編「真実の愛を閉じ込めて」

その王国の地下大聖堂には、紫の水晶に閉じ込められた女王が横たわっている。人知れず眠る彼女の瞳からは絶え間なく涙が流れ続け、まるで鍾乳洞のようにその水晶は日々巨大化しているということだった。城の大魔導士が何人も女王の石の呪縛から解き放つため様々な呪文や呪術を施したが、いっこうに効果がなく、やがて王国は国中の魔導士たちに女王の呪いを解くようにおふれを出した。身分も階級も関係なく、女王を紫の水晶から見事救出したものには全ての罪をなくし、金貨千枚。実に一生を遊んで暮らせるだけの金額を約束するという。

「へぇ」

酒場カストルの壁に貼られていた張り紙を奪いながら、青年はひとりニヤリと笑った。
その横には自分によく似た人物がお尋ね者として並んでいるが、彼は自分の顔に興味はないのか、女王の一件を記した紙だけを胸の中にしまいこむ。

「おい、見つけたぞ」
「やっべ」

衛兵の声に我に返った青年は、その瞬間、酒場の前から忽然と姿を消していた。

「ったく、足の速い奴だな」
「また、バジドに逃げられたか」

バジド。街の壁中に張り紙をされた一級品のお尋ね者。彼の罪はただひとつ。

「女王を水晶に取り込めた盗賊風情が、早く追いかけろ」

隊長の怒声を受けて衛兵たちがバラバラと街へ散っていく。それを眼下に眺めながら、バジドは屋根の上でゴロリと寝転んだ。そして胸にしまったばかりの張り紙を取り出す。

「この魔法は俺にしかとけねぇよ」

半年前。本当にたった半年前、王女から一転、女王として国を治めることが決まった少女は戴冠式の夜、城の地下大聖堂でその魔術にかかった。原因はたったひとつ。盗賊として名高いバジドとの密会。数年前、まだ王女だった現女王が、ケガをした彼を内密に処置を施したのが始まり。それから彼らは人目を盗んでは密会を重ね、彼女が女王になった贈り物にバジドが用意したものが「心の絆を深める愛の守護石」として名高い紫の水晶だった。
しかし、盗賊と王女。彼らの関係は認められない。

「私はあなたと一緒に生きられるのなら女王の地位などいりません」

その言葉が引き金となり、水晶は彼女を永遠の眠りにつかせた。

「あのとき、怖気づいた俺を怒ってるんだろ?」

城の地下大聖堂。
衛兵や城の警備をかいくぐり、月光が差し込む夜更けに、バジドは女王の眠る水晶の前にやってきた。自嘲気味の声で吐き出される口ぶりに、もちろん誰も答えない。

「身よりもない盗賊の俺でもお前は受け入れてくれるんだな」

身分も地位も持たない孤独な青年の声は、キラキラと乱反射する紫の石の中に吸い込まれては消えていく。

「あれから調べたよ。この石の魔法を解く方法もわかったんだ」

そういいながら、眠る女王を見つめるバジドの背後に鋭利な刃。

「きさま、女王陛下から離れろ」

しかしバジドは、城の衛兵たちから刃を向けられる中で、余裕の笑みを吐き出した。
「女王を助けたら過去の罪状はすべて白紙になるんだったよな」
そうして掲げられたバジドの右手から巨大な紋章が放出される。一流の魔導士、いや、最上級の魔導士以外に使用できない究極魔法の陣だということは、誰の目にも明らかだった。

「俺はティナを愛している」

その瞬間、月光に照らされた紫の水晶に大きな亀裂が走った。それはバキバキと音を立ててひび割れていき、やがて宝石の中から一人の乙女を誕生させる。

「バジド」
「ティナ、俺が悪かった。お前から離れるために贈る石じゃなかった」

宝石にかけられた呪い。真実の愛を繋ぐ結晶の物語はその後、身分や階級を超えた王が誕生したことで、永遠に語り継がれる物語となった。

(完)

プロムナードとは

遊歩・散歩を意味するプロムナード。「日常の中にほんの少しの非日常を」というコンセプトを元に、短く仕上げた物語たちのこと。皐月うしこオリジナルの短編小説置き場。

※文字数については各投稿サイトごとに異なる場合があります。
※読了時間については、1分あたり約750文字で計算しています。