小説『ススキが目を覚ますころには』
こんにちは、皐月うしこです。
妖怪のお話が書きたいと思いましたので、この季節らしい妖怪を小説にしました。
小説
『ススキが目を覚ますころには』
偶然か必然か今となってはよくわからない。
ただ、季節の移り変わり目に降る雨の匂いは、知らずと記憶を掘り起こす。灰色の空の下、ずぶぬれで泣いた人の子は今もどこかで泣いてやしないだろうかと。
あれは、五十年も前のことだった。
夏の終わりに降る雨は秋の匂いを連れながら、どこか湿気が多く、息苦しい空気に満ちていた。私は、膨らみかけたススキの穂先を眺めながら、ただボーっと一人静かに雨にうたれていた。
するとどこからか、人の子が輪になって押し寄せてきた。
目の前に倒れる一人の子。傷だらけでボロボロで、その子を置いて他の子は行ってしまった。
「随分とボロボロだな」
どうせ聞こえやしないだろうと嘲笑の声で笑う。するとどうだろう。
「笑うなよ」
人の子はたしかに、真っ直ぐと私を見据えてそう言った。
黒い双眸が雨に混ざった私の姿を捕えているのか、睨む視線は少しの恥ずかしさと悔しさを滲ませていた。
「おまえ、私が見えるのか?」
「は?」
「いや、いい。だが、随分と派手にやられたみたいだな」
「一対一なら勝てた」
いきのいいガキは嫌いじゃない。感嘆の息を吐き出す私の前で、人の子はさっさと立ち上がり、そして盛大に泣いた。面食らったものだ。さっきまでの威勢をどうしたのか、私は呆気にとられて思わず笑っていた。
「笑うなよ」
「いや、だって。それはないだろう」
悔しい悔しいと泣く声は、雨と私の笑い声にかき消されていく。
「次、勝てばいいさ」
目を合わせて微笑んだ私の顔に、彼は「うん」と何度も小さくうなずいた。あの日は確か、雨が止むまで喧嘩の仕方を教えてやった。けれど彼は途中で寝落ちてしまい、しばらく一緒にいたのだが、そのうち彼の兄が迎えに来て連れて帰ってしまった。それ以来、彼の姿は見ていない。
あれから五十年。私は秋になると目を覚ます。頬に伝う生温かな雨にうたれて、ススキが静かに揺れていた。《完》
ススキの花言葉
単純に思いついただけなのですが、後で調べてみますと、ススキの花言葉には「活力」「心が通じ合う」という意味があるそうです。なんとも興味深い繋がりとなりました。
そもそもなぜ、今回妖怪のお話を書こうかと思いついたのかと言いますと、『夏目友人帳でも妖怪と人間の恋愛の話が好きだ。いつか見えなくなる、先に人間が死ぬそれでも好きになってしまった。好きになってしまったから君から離れよう、君を連れ去ってしまおう、君のそばにいよう』といった、こう何とも言えない心境に私も共感しましたので、せっかくなら書いてみようと思ったのです。
でも、はい。笑
読んでおわかりいただけたように、全然恋愛じゃない!!
こう甘酸っぱい恋愛苦手なんですよ。書けないんです。狂愛とか溺愛とかそういう男は・・・書くと変態ちっくにもなりますが、そういう方が得意です。
まあ、それは小説でぜひご覧ください。
Youtube
朗読してみました
今回もViva Video様の力をお借りして、朗読をしました。
あえて少年の声を読んでいないのですが、世の中には両声類という声の持ち主もいるのでビックリですよね。私のツイッターでのユニット「共鳴話界(きょうめいわかい)」を組んでいる絃さんは女性ボイスも男性ボイスも出せるのですごいですよ。
私も朗読は好きなので、心地よい物語をお届けできるようになればと思います。