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魔女集会で会いましょう(ありふれた魔女たちの日常より)

この作品は、2018年9月発行「ありふれた魔女たちの日常」に収録されました。
その他注意事項は必読を確認ください。

ありふれた魔女たちの日常

魔女集会で会いましょう

真夜中の鐘が鳴り響く頃、ガヤガヤと騒がしい声が大きな広間に集まってくる。
ペアの出席が必須条件とされる珍しい夜会では、誰もが”数年前に拾った自分とは別の種族”を連れて出席していた。それはいま、到着したばかりの彼女たちにも当てはまること。
カツン。と、細いヒールを鳴らして、しなやかに巻いた金色の髪を揺らしながら女は左右に視線を走らせる。

「あなたを拾ってもう二十三年になるのね。早いものだわ。前の魔女集会では単身で参加できなかった私が、今回はあなたと一緒に参加するものだから、ミラルダったら血相を変えて見送ってくれたわね」

クスリと笑う形にいい唇は、赤い果実の色に染まっている。
美麗な青年にエスコートされたその姿は、高貴な身分かのようにザワつく周囲に一滴の波紋を落としていた。

「ほら、みんなあなたを見ているわよ」

「セイラ様を見ているんですよ」

今にもダンスを踊りだしそうなほど優雅に会場の中心へと足を進めながら、二人は声をなげあう。ぱっと見の主従関係なんて、彼女たちを知っていようといなかろうと一目瞭然。
金色の髪に紅い唇、真っ黒なドレスに青白いほど透き通った白い肌。
美人だが悪戯好きで癇癪持ち。誰もが関わり合いを避けたがることで有名な魔女セイラが、この夜会に足を踏み入れるなど青天の霹靂だと思われているに違いない。
一人でもまともな生活を送ることの出来ない女が、ペアで出席している。
それも、端整な顔立ちで物腰の優雅な好青年をエスコート役にして。

「ミラルダったら今頃、どこかで美男でも誘惑しているのよ。私の方がモテるけどって、あら、なによ。妬いてるの?」

一度足をとめ、斜め上からにらむように視線を向けた青年に対して、クスクスと笑っていたセイラは優越に口元を歪める。男を誘惑する悪い魔女。彼女のせいで魔女に対する悪いうわさが広まったんじゃないかと思ってしまうほどだった。

「妬いてませんよ、別に」

再び歩き出した青年に引きずられるようにして、セイラも再度足を運び始める。
体は青年にすり寄るように持たれながらも、視線は周囲に向けられ、どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

「なんで俺が妬かなきゃならんのですか。恩師であり、母のような貴女を敬愛はしていますけどね。まあ、でも。今回、百年ぶりに開かれるという魔女集会に初めて同行してみましたが、力も美貌も貴女は群を抜いて素敵だということはよくわかりました」

「あなたも可愛いことを言うようになったわね。拾ったときなんか、ピーピー泣くだけのただのうるさいガキだったくせに。ほら、見てごらんなさい。みんなあなたに注目しているわ。イイ男に成長したもの当然よ。育てた私に感謝なさい。有難く思うならこれからも傍にいることね」

「何を言っているんですか。俺が貴女の傍にいるのは当たり前でしょう。離れることなんか微塵も考えていませんよ。それに表向きはそうして猫をかぶっていますが、意外と抜けているんですから、貴女こそ俺がいなくなったら困るのではないですか。ああ、ほら段差につまづきますよ」

「キャッ」

言うが早いか、丁度同時刻につまづいて体制を崩したセイラの体は、しっかりと青年に受け止められている。
けれど、彼の顔はそれまでの物静かさを一変してからかうような悪戯な笑みを浮かべていた。

「ちょっともう、なによ。そんなに笑うことないじゃない。少し私よりデカくなったからって生意気なのよ。あなたに支えてもらわなければ立てないほど私はまだ劣っていないわ」

青白い肌に血が巡り、冷酷に見えていた容姿が一気に幼くなる。そうしたセイラの反応に周囲が目を見開いたのは言うまでもないが、会場の雰囲気は確実に青年の方をとらえていた。

「って、いつまでくっついているの。邪魔なんだから早くどきなさいよ。ちょっ、どこ触っ、え?」

「俺がここで手を離したら、確実にこけますよ。ケガをさせずに済んだことに、今ホッとしているんですから少し黙っててください。ああ、ローブに腰ひもが絡まりました。すみません。とるまでじっとしていてください。ここで暴れて人目を惹きつけるのは得策だとも思えませんよ」

「人目ならもう十分惹きつけてるのよ。ねぁ、いつまでモタモタやってるの。ほら、視線が痛いんだからさっさとしなさいよ。この態勢、意外ときついんだから」

密着させてしゃがみこんだ男女。
セイラを抱きかかえるような体勢で止まった青年が、何をしているのかなどわからない。わからないからこそ、目立つ存在に目を向けたまま会場は水をうったように静まり返っていた。
この現状に思いのほか、早くねをあげたのはセイラの方がったのは無理もない。

「年上の女性はもっと丁寧にいたわるものだって、あれほど言っているのにって聞いてるの。図体ばかり大きくなって、もう」

ジタバタと暴れるように癇癪を起し始め、威嚇する猫のように爪をたてて青年を攻撃し始める。
その様子に、ようやく周囲も納得したのか会場はザワザワと元の雰囲気に戻り始めていた。約一名、その猫の爪にひっかかれた青年だけは、怒ったように冷酷な瞳をセイラに向ける。

「暴れないでくださいよ。痛っ、ああ、もう、うるさいな。じゃあ、俺が抱えて歩くので、もうそれでいいでしょう。貴女は俺に抱かれていればいいんですよ。そうすれば、今夜はミラルダさんのように他の男を物色もせずにすむでしょうし、一石二鳥じゃないですか」

それまでの好青年ぶりはどうしたのか、柔らかな金色の髪が自分のローブに絡まったまま、青年はセイラを抱えて会場を進んでいく。その口調は物静かとはいいがたい頑固さを秘めていた。

「本当に世話が焼ける人ですね」

「何よ、やっぱり妬いてるんじゃないの」

数分前の会話を思い返して、セイラは青年の腕に抱かれるままニヤリと悪戯な笑みを浮かべて大人しくなった。

「本当に可愛い坊やだこと。いいわ、今夜はあなたの嫉妬に免じて、大人しく抱かれていてあげる。その代わり、しっかり支えるのよ。少しでも私にツラいと思わせたら許さないんだから」

腕の中から見上げる視線は、本当に誘惑の得意な魔女そのもの。

「望むところです」

その魔女に育てられた青年の笑みもまた、セイラのように挑戦的な視線をしていた。

「言ったわね。魔女集会は想像よりずっと長いわよ。覚悟なさい」

はたして一晩中、彼らがその状態だったかどうかは定かではない。
それでも星屑の舞う夜空の月に開かれた魔女集会は、大盛況のうちに幕を閉じたともっぱらの評判だったという。

(完)

Tales Recordとは

皐月うしこの童話みたいな短編置き場。「今日もこの世界のどこかで生きている」をキャッチコピーに綴ります。なさそうであり、ありそうでない。そんな狭間の物語です。