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短編「モフリン・コーストンの不思議な帽子」

概要

2024年5月に刊行された星空ヱトランゼ様主催の「帽子と外の時間を楽しむ合同誌」参加作品となります。
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作品名

作品名:モフリン・コーストンの不思議な帽子
公開日:2024/5/19
ジャンル:ファンタジー
文字数:約7200字
読了時間:約10分
タグ:魔法の帽子/迷子/領主

Story魔女モフリン・コーストンが生み出す帽子には不思議な力が宿るといわれ、事実、モフリンの作った帽子には様々な逸話が残されている。だからこそ、いま、ここで一人の少女ベルが馬車ひとつ走らない平原で途方に暮れていたとしても、全く問題ないと告げてあげたい。

本編「モフリン・コーストンの不思議な帽子」

 魔女モフリン・コーストンが生み出す帽子には不思議な力が宿るといわれ、事実、モフリンの作った帽子には様々な逸話が残されている。例えば、森で迷った王子が運命の王女と出会ったり、継母に家を追い出された娘が莫大な財産を築いたり、婚約破棄された令嬢が隣国との和解に一躍買ったりなど。代々受け継がれ、大切にされてきた帽子たちだけが知っている真実は、語り継がれる物語とは異なる姿をしているものだが、それでもモフリン製の帽子はあらゆる逸話で使用者たちと運命を共にしてきた。
 だからこそ、いま、ここで一人の少女ベルが馬車ひとつ走らない平原で途方に暮れていたとしても、全く問題ないと告げてあげたい。なぜなら、ベルが頭にのせている帽子はモフリン製だから。

「…………はぁ」

 でこぼこ道の脇で、地面に置いたトランクの上へ腰かけたベルは、天気だけが味方だと言わんばかりに重い息を吐き出して、青い空を見上げる。
 のどかな空。野ウサギに似た丸みを帯びた雲が複数浮かんで、ゆっくりと流れていく午後の昼下がり。見渡す限り平原で、家はおろか畑もない。
 なぜ、自分が寂れた場所にひとりでいるのか。それはベル本人にも謎だった。

「まさか、風に飛ばされた帽子を追いかけてここまで来るなんて」

 親戚の結婚式へ出席したとき、今は亡き母が若かりし頃に使用していた帽子だよと、形見分けのようにもらった遺品。結婚式も無事に終わり、父の待つ家へ帰るため、駅のホームで電車を待っていたら、突風があらゆる荷物を巻き上げて去っていき、その中に形見の帽子も含まれてしまった。それだけのこと。
 いくら風に煽られたからといっても、すぐに拾えるだろうと思っていた。それなのに、帽子は高い木の上に降り立ち、偶然飛び立った鳥にくわえられ、荷馬車を引く牛の頭に乗ってここまで来た。
 まるで意志があるように。
 いや、誰かが意図的に操るみたいに、帽子はベルをここまで連れてきた。はるばる追いかけてきたベルは、ようやく帽子を拾って、このありさまである。

「こんな古い帽子、どうして必死に追いかけちゃったのかしら」

 風にさらわれた帽子だけを追いかけて、ベルはこの道を進んできた。普段の自分の性格からは想像もつかない行動力だと、トランクの上に腰かけたままベルは帽子のツバを両手で握る。

「お母様の帽子。随分と古いものだけど、私の頭になぜかピッタリなのよね」

 不思議なこともあるものだ。かぶってみると、違和感がまったくない。元からベルに合わせて作られたみたいに、帽子は頭の形から深さ、大きさまで何もかもがちょうどいい。
 それなのに、風で飛ぶこともある。
 両手でつかんでいれば大丈夫だろうと、ベルは空を見上げていた顔を徐々に落として、なだらかに続く道の先をじっと眺めた。
 今さら駅まで戻ったところで、乗る予定の電車には間に合わない。それであれば、多少道草を食ったとしても問題ない。幸い、天気は味方してくれている。

「それにしても、のどかねぇ」

 こんなに穏やかな気持ちは久しぶりと言わんばかりに、ベルはひとり大きく伸びをして身体の力を抜く。

「あー、こんなことならサンドイッチでも買っておくべきだったわ」

 ピクニックにはちょうどいい。日差しは穏やかで、風が心地よく吹いている。さっきの突風はいったい何だったのか。考えたところでわかるはずもない。
 自然とはそういうものだと、ベルは脱力して周囲を見渡した。
 平原が広がるおかげで見晴らしがよく、誰かが来ればすぐにわかる。サンドイッチを食べていたとしても問題ないだろう。しかし、残念なことにサンドイッチはない。

「帽子なんて、普段かぶらないものをかぶったせいね」

 見知らぬ土地で、いい大人が迷子になるだけならまだしも、その理由が帽子なのだから少しだけ恥ずかしい。運よく通りがかった人に声をかけられたときのために、言い訳でも考えておこうかと、ベルは困った様子でひとり笑った。

「……私の人生、本当についてないわね。まあ、でも、アルベルト辺境伯の領地なのは不幸中の幸いかしら」

 このあたり一帯を治める領主の手腕は耳に新しく、治安がいい土地だということを知っているだけで心強い。いま、この状況で野生動物はもちろん、追いはぎや盗賊に遭うことがあれば最悪だとベルはごくりとのどを鳴らした。

「そもそも女の一人旅なんて、用心するに越したことはないんだけど。辺境伯の領地なら安心だわ。お父様も娘が時間通り帰宅しないのを怒りはしても、心配する人ではないし。電車に乗り遅れた事実は変えようがないもの、ここは潔く腹をくくるのが最善ね」

 告げていた予定時間よりも遅く帰宅することになるのは申し訳ないと思う反面、ベルは現状を少しだけ楽しんでもいた。

「こんなことでもない限り、自分一人の時間なんてないのと同じだもの」

 そういって、また一人大きく伸びをする。
 実家は由緒ある貴族の家系だったが、ベルが十二歳を迎える頃には資産が底をついて庶民へとなり下がった。それまでの暮らしが一変したことで両親は離婚し、病弱な母親はベルが十八歳の頃に他界した。昨年、母親が亡くなると知るや否や、父親はベルを引き取り、今は父娘の二人で暮らしている。ベルの縁談で貴族に返り咲こうと奮闘する父親のたくらみは知っているが、他に頼る先もない。ベル本人は家事を引き受け、細々と暮らす道を受け入れた。とはいえ、まだ十九歳。やりたいことはたくさんある。
 母方の親戚の結婚式でなければ、こうして外に出かけることもなく、ひとりでのんびりと空を眺めることもなかっただろう。

「たまにはいいわよね。私だって、羽を伸ばす権利くらいあるはずだわ」

 そうだそうだと風まで背中を押してくれているようで、ベルは鼻腔に自然の匂いを送り込む。庶民になり下がっても現実を受け入れられない父親の浪費癖は収まらず、ベルは使用人のいない廃墟同然の屋敷で常に窓や床の掃除に追われていた。湿気とホコリと灰の匂い。純粋な自然の匂いを楽しむのは久しぶりだと、数回深呼吸を繰り返し、ベルはようやくその場から立ち上がる。

「あら、あれは何かしら?」

 地面に置いたトランクに座っていたときは気が付かなかったが、地平線上にぼんやりと屋敷の屋根に似た何かが見える。歩いていけない距離ではないだろう。戻るにしても進むにしても、どうせ一本道。
 ベルは、ここまで来たのだからと好奇心の赴くままに、その正体を確かめることにした。

「見えているものって、意外に遠かったりするのよね」

 はぁはぁと、ベルは息切れをしながら一向にたどり着かない屋敷らしき建物を目指している。先ほどより少し輪郭がはっきりとしてきたが、それでも深緑の屋根の一部以外、全貌はまだ掴めていない。
 やはり諦めて、元来た道を戻ろうかと思案したそのとき、また突風がベルの帽子をさらって、数メートル先にある高い木の上に置いてしまった。

「…………うそ、でしょ」

 愕然と肩を落とすしかない。さすがにあれは諦めるレベルだと、ベルは呆然と立ち尽くしていた。ただ、素直に引き下がれない。あれは親戚から譲り受けた母の形見。はいそうですかと、置き去りにするのは心苦しい。

「どうしよう。誰かに、はしごでも借りなきゃ無理だわ」

 それでもここは無人の平原。黙って立っていても、助けてくれる人はいない。

「登れるかもしれないし、近くまで行ってみましょ」

 木登りをしたことがなくても、庶民として生活していたときに、木登りとはどういうものかを見たことがある。やればできるかもしれないし、案外上手かもしれないと、ベルは木の近くまでやってきて、そしてそんなものは思い上がりだったという結論に至った。

「現実は、想像とは違うわね」

 顔を真上に向けてそう思う。立派な木だが、足をかけて登るには少々難易度が高すぎる。
 母親の数少ない形見だが、ここまでくれば諦めるしかないと、ベルはじっと木を見上げていた。

「お嬢さん、困りごとかな?」

「…………っ」

 驚いた。なんてものではない。
 ベルは自分の息が止まり、心臓が早鐘を打って警戒するのを感じていた。その証拠に、繰り出した右手のひらが、見ず知らずの男性の頬を引っぱたいている。

「ごっ、ごごごごめんなさい」

「いや……こっちこそ、いきなり声をかけて悪かった」

 きれいな音がしたので、相当の威力を与えてしまったに違いない。ベルは目の前にいる男性の頬が、自分の手形と同じ形で赤くなっているのに気付いて、ますます申し訳ない気持ちにかられていた。

「本当に申し訳ありません。まさか人が木の上から降ってくると思わなくて」

 突然、見上げていた木の中から人が飛び出してきて、目の前に降り立ったら誰でも驚く。それも自分よりも背が高く、少し日焼けした不真面目そうな雰囲気が悪い印象を伝えてきたのだから、先に手が出ても仕方がない。けれど、それはベルの所感であり、男性は親切で声をかけてくれただけかもしれない。

「まさか、こんなところで可愛い子に出会えるなんて思わなかった。いいよいいよ、可愛い子の平手打ちなんて何度くらっても、いいものだから」

「…………は?」

 ベルは前言撤回だと言わんばかりに、謝罪を後悔していた。不良は所詮、不良なのだとベルは冷めた目で男を眺める。
 身なりは悪くないが、筋肉質で背が高い。モスグリーンの瞳と銀灰の髪色。黙っていればモテそうな気もする。ただ、やはり遊び人っぽい雰囲気がベルの不信感をぬぐい切れないでいる。

「アラングレー・アルベルト。人はみんなアランって呼ぶ」

「……へぇ」

「ねぇ、名前は?」

 名乗ったのだから、名乗り返せとでもいうのだろうか。ベルは典型的なナンパに引っかかる気はないと唇をへの字型に結んで、ついでに無視を決め込んで木の上をじっと見上げた。帽子は、まだそこにある。

「ん。ああ、あの帽子、取ってあげようか?」

 随分と高いところに引っかかったねと、爽やかに笑う姿をベルは無視し続ける。それなのに、アランはまったく気にしないという風に、ベルの動きの真似ていた。
「……あの」「なに?」
 目の前に立たれると何も見えない。どうして至近距離でにやにやと眺め続けなければならないのか。まさか、自分が叩いたのは頬ではなく頭だったのではないかと不安がよぎる。

「いま、絶対失礼なことを考えているでしょ?」

 こんなところで時間を無駄にする気はない。ベルは男の存在そのものを視界から消すと、帽子を取りに行くべく、生まれて初めての木登りに挑戦することにした。

「……んー……っと」

「木登りをするの?」

「別に……いい、でしょ……あなたには関係な、い」

「その枝をつかむなら、足はそっちのくぼみのほうがいい」

「よい、っしょ……っと」

「そこは滑りやすいから気を付けて、次の枝は手前よりも奥の方がしっかりしてそうだ」

 手を伸ばして枝をつかむたび、足をひとつ動かすたびに細かく指示されると気分が悪い。たしかに木登りに関しては彼の方が得意分野かもしれないが、あまり良い印象のない人物からの助言は、やはり素直に聞けない。

「ねぇ、少し黙っていただけないかしら」

「集中しないと落ちるよ?」

 そう言われてしまえば確かにそうだと思ってしまう。現に、ベルは足を滑らせて間一髪のところだった。

「ほら、言ったとおりだっただろ?」

「誰かさんが集中力を切らせるようなこというからよ」

 木にしがみつきながら、ベルは「こうなったのはあなたのせいだ」と悪態づく。自分一人であればもっと上手くやるし、大体、足を滑らせるなんて失態は起こらなかったと断言したい。

「不格好な状態を知られるなんて屈辱だわ」

 そんな呟きをこぼして、ベルは木登りを再開させた。

「キミは人に頼るのが嫌いだね。ボクに任せていいんだよ?」

「結構です。これくらい私にだってできるわ」

 そこからは、ひたすら木登りに集中する。けれど初めてのことを初めから上手にできる人なんてどこにもいない。ベルは軽薄な男だと軽蔑しつつ、的確なアドバイスをくれる声を頼りにしていると、途中から気付いていた。
 気付いたところで、素直になれない。
 帽子を無事に取り戻せたらお礼のひとつくらい言ってもいいかもしれない。そんな風に思いながら、ときどき聞こえてくる助言に従いつつ、ベルは着実に帽子の元へと近づいていった。

「……んー……もう少し」

 枝の先は細く、ベルはしがみつきながら必死に手を伸ばす。帽子は一番先に引っかかって、ベルの重みでゆらゆらと揺れていたが、指先が触れるか触れないかのところで、ボキッとイヤな音が鳴り響いた。
「ッ」「ナイスキャッチ」
 驚愕で息が止まり、叫ぶ余裕もなかった。ギュッと目を閉じて、地面にたたきつけられる衝撃を想像していたのに、ベルが落ちたのはアランの腕の中だった。

「危なかったね。ケガはない?」

 周囲にはベルの体重で折れた枝が複数落ちている。それなのに、帽子はまだ木の枝に引っかかっているようだった。

「……え?」

 ベルを抱えたまま、アランは木の枝をひとつ拾うと、それを投げて簡単に帽子を落とす。ふわりと魔法にかかったように、帽子は落ちて、アランは難なくそれを片手でつかんだ。

「随分古いみたいだけど、大切な帽子なの?」

「この帽子は母の形見なんです」

 帽子を受け取りながら、ベルはホッと肩の力を抜く。自分でもどうして必死に取りに行ったのかわからなかったが、こうして戻ってくると、とても大事なものだと確信できた。

「アラン……アラングレー・アルベルト様。帽子を取っていただいて、ありがとうございます」

 少しだけ恥ずかしい。あれほど自分でできると豪語していたのに、木から落ちて助けられただけでなく、帽子まで難なく取り戻してくれた事態が顔を赤く染めてくる。
 ベルは顔を帽子で隠しながら感謝のあとに「邪険にして申し訳なかったわ」と謝罪を口にした。

「じゃあ、名前を教えて」

 地面に足がついたベルは、命の恩人とも呼べる青年と初めてまともに向き合った。
 背が高いから見上げる形になってしまうが、改めて見ると、モスグリーンの瞳と銀灰の髪色が美しく、誰からも好かれそうな柔らかい雰囲気をまとっている。爽やかな風が吹いて、まるで今までの悪印象を連れ去ってしまったみたいだった。

「ベルシア・ディドリヒト。みんな、ベルって呼ぶわ」

 ベルは名前を告げた。スカートを摘まみ、貴族の頃に身に着けた最高系の礼で、再度、感謝の言葉を添えることを忘れなかった。
 アランは少し驚いた顔をしていたが、すぐに「よろしくね。ベル」と笑って名前を呼んでくれた。

「ところで、ベル。どこかに行くつもりだった?」

「え、あ……どこかというわけではないんだけど」

 自然にトランクを持って歩き出したアランに続いて、ベルはこれまでの出来事を喋り始める。風が帽子をさらってここまでやってきたことから、気付けば、実家のことまですべて話してしまったのは、意外にもアランが「うんうん、それで?」と聞き上手だったことが大きい。

「それで、あの深緑の屋根を目指して歩いていたの」

「そうなんだ。よければ招待するよ」

 道を抜けた先、深緑の屋根をした大きな建造物を取り囲むように、城塞ともいえる立派な壁が現れる。自然の中で異彩を放つその内部は、市街地が広がっているのだろう。にぎやかな声が聞こえてきそうな活気ある雰囲気が、門の向こうに見え隠れしている。
 森の中に突然現れた堅牢な異世界。ここを目的に訪れる人も多いのかもしれない。その証拠に、屈強な兵士が門番を務める出入口は、検問待ちの業者が並んでいるようだった。
 それはベルが想像していたよりもずっと立派で、ずっと文明的な気配が漂っていた。

「すごいわ、アラン。噂に聞いた辺境伯の砦みたい」

「噂?」

「絶対守護神、無血の砦。アルベルト辺境伯の治める領地が世界で一番安全だって言われているのよ。領主様の街は他国からの侵略を何度も跳ね返し、まだ若い領主様は自ら先陣を切って人々を守るんですって、たしか領主様の名前は……」

 まさか一本道が続く先に、こんな場所が待っていると思わず、ベルは顔を輝かせてアランの腕をつかむ。そして同時に、辺境伯の名前を思い出して固まった。

「……アラングレー・アルベルト、様」

 ひぃっと息をのんだベルは、無作法に掴んでいた手を放そうとしたが、瞬間、アランの手が重なって行き場を失う。

「あ、あの私、私……知らなくて」

「あー、ベルに叩かれた左の頬が痛いなぁ」

「もっ、申し訳ありません」

 くすくすと笑いを抑えきれていないアランが、いたずら好きの子どものようにベルを見下ろし、それからベルの手に指を絡めた。

「きゃっ」

 また突風が吹いて、ベルの頭に乗った帽子が飛んでいこうとする。
 それを捕まえようとしたベルの手よりも先にアランの腕が伸びて、トランクが地面にどさりと着地する音が聞こえてきた。

「ベルは本当に危なっかしいね」

 恋人のようにつないだ手が熱い。おそらく、きっと顔も真っ赤だと断言できる。頭の上に帽子はちゃんと戻ってきたが、戻ってきたときに頬をかすめた唇の熱は勘違いではないだろう。左の頬がじんじんと熱をもって鼓動を早く変えてくる。
 これはいったいどういうことだろう。焦燥と混乱に思考回路が停止したベルにわかるはずもない。そんなベルをつれて、アランは再びトランクを手に取って歩き始めた。
 当然のように、目の前にそびえる街に連れて行こうとしている。

「あ、あの……ああ、ある、アルベルト様」

「どうしたの、ベル」

 そんなにかしこまってと、平然と言ってのける若き領主は、やはりちょっと遊び人なのかもしれない。それでも、これは魔女モフリン・コーストンの帽子が選んだ相手。不思議な力がもたらす物語を登場人物たちは甘んじて受け入れるしかない。
 胸の高鳴りは、すでに恋の始まりを告げている。
 白馬に乗った王子でなくても、美しく眠る王女でなくても、いつか誰かが語り継ぐような歴史の背景には、いつもその帽子があるのだから。

≪完≫

あとがき

ファンタジーが大好きなので、軽率に「不思議な力」を物語の基盤に組み込んでしまいます。今回も例にもれず、不思議な力を帽子に宿してしまいました。ネーミングはいつも思い付きで深い意味はなく、今回もそんな感じで
す。モフリン。響きが可愛い。私も不思議な力が宿った帽子を手にしてみたいなぁと思いつつ、普段は接点のない場所に向かうドキドキ感をお届けできたらいいなと思います。

プロムナードとは

遊歩・散歩を意味するプロムナード。「日常の中にほんの少しの非日常を」というコンセプトを元に、短く仕上げた物語たちのこと。皐月うしこオリジナルの短編小説置き場。

※文字数については各投稿サイトごとに異なる場合があります。
※読了時間については、1分あたり約750文字で計算しています。