薄桜鬼10周年記念 その弐「沖田総司」
はじめに
ここでは、オトメイト様より発売中の「薄桜鬼」をもとに小説を作成しています。アニメ版薄桜鬼やファンソフトは未playなため原作寄りです。
版権の二次小説に関しては著作権はゲーム会社にありますが、文章及び、表現内容に関しては当サイト管理者である皐月うしこにあります。リクエスト等は受け付けてません、キャラ違い等の苦情も一切受け付けませんので、ご理解下さい。
基本的に千鶴総受けですが、甘さは濃くありませんので、濃厚な内容をお求めのかたは戻られることをオススメします。
名前変換もありません。
とにかく、趣味の範囲で作成してますので、ご理解お願いします。
小説:言葉の裏にあるもの
視点: 沖田 総司
最近変な咳が出てるせいで、土方さんどころか山崎くんまで過保護すぎる。おかげで今日は、僕が巡察の番だったのに一君にとられちゃうし。
「ここまで過保護だと逆に邪魔にしてるとしか思えないんだけど…」と呟きかけた言葉は、目の前からやってくる人物を見て変わる。
「千鶴ちゃぁん」
「っ!?沖田さん?」
……何、その反応。まるでいつも僕が意地悪してるみたいじゃない。気に入らないなぁ。大体こんなに天気のイイ日に寝てろだなんて土方さんも人が悪いし、何より退屈だし?
「あの…沖田さん?」
「ん~?」
「そろそろ離していただきたいんですが…」
「なんで?」
「なんでって…」
しどろもどろになる君が面白い。やっぱ千鶴ちゃんは、こうじゃないと。せっかく見つけた玩具なのに、みすみす逃がす真似を僕がすると思う?
ギュッと抱き締めれば、それに呼応して固まるし、緩めれば緩まる。
「そういえば、今日は沖田さんが巡察の番でしたよね?」
腕の中から見上げてきた千鶴ちゃんに僕は無言で微笑みかけた。せっかく忘れかけてた苛立ちが、また沸き上がってくる。
「土方さんが過保護なんだ」
僕がしゅんとした顔をすれば千鶴は、慌てて、「まだ、風邪治らないんですか?」って聞いてきた。
…どうしよう。
うんって言えば、心配した顔でうろたえるだろうし、ううんって言えば、本当ですか?って、うろたえるだろうな。どっちの答えでも想像できる反応に、思わず笑みがこぼれた。
「なっ何でそこで笑うんですかっ!?」
「僕ってそんなに弱そうに見える?」
「えっ?見えませんけど…」
「だったら、何で心配なんてするのさ」
「なんでって…」
決まってるじゃないか。
僕が、いらないからだ。
「沖田さんが、大好きだからですよ」
「……君、本気で言ってるの?」
予想だにしなかった言葉に驚いた。
所詮、その場しのぎの言葉に決まってるのに、心が弾んだ自分にも驚いた。
「本気ですよ?」
その素直さって、たまにすごく残酷だなって思う。
「じゃあ、責任とってよ」
「えっ?何のですか?」
「なんのって──」
「おい!総司!てめぇは何してやがるっ。寝てろって言っただろうが」
「いいところなんですから、邪魔しないでくれます?」
そうだよ。
土方さんは、いっつもこうだ。鬼の形相で追いかけてくるのが楽しくて、僕は逃げる。
結局、途中で咳こんじゃって、「ほら。言わんこっちゃねぇだろうが」と、土方さんに捕まった。
「まったく、とっとと寝て、早く直しやがれ」
土方さんに言われなくても、そんなこと僕が一番望んでる。
「だったら、土方さんが変わってくださいよ」
冗談で言ったのに、土方さんは何とも言えない顔で出ていった。
何だかおもしろくない。
思い通りにいかない体が更に気分をイラつかせる。
大体僕は、こんなところで倒れてるわけにはいかないんだ。僕が倒れたら、誰が近藤さんを守るっていうのさ。土方さんには、まかせてなんか置けないし。左之さんや新八さんは、多分近藤さんより自分たちの気持ちが優先だろうな。
人それぞれだから、僕はそれをどうこう言うほど子供じゃない。
平助は、千鶴ちゃんに夢中って言うか…
僕からしてみれば新撰組の秘密を知って、捕らえた女の子に惚れるなんて、あり得ないんだけど。一君は、裏切らないだろうけど近藤さんを守るっていうよりも新選組って感じだし。
「やっぱり、僕がちゃんとしなくちゃ」
諦めて布団に横になった時だった、「沖田さん、起きてらっしゃいますか?」千鶴ちゃんだってすぐにわかったけど、僕はもう寝るって決めたんだ。
「お薬、ここに置いておきますね」
……廊下において、どうすんのさ。
「起きてるよ」
「入ってもよろしいですか?」
「いいよ」
遠慮がちに襖がひらく。緊張してるのが、手に取るようにわかった。怖いのか何なのかわからないけど、薬を乗せたお盆が震えてる。
「そんなに嫌なら、断ればよかったと思うけど」
思ったことを口にしただけなのに、何故か睨まれた。
「沖田さん。苦しかったら苦しいって言って下さいね」
「はっ?」
まったく脈絡のない会話に呆れた。
「さっき、ひどい咳をしてたって……」
あぁ、土方さんに聞いたのか。
「大丈夫だよ」
それこそ、君に心配されるようなことじゃない。
「本当ですか?」
「大丈夫だってば、僕が死んでも誰も悲しまないって」
冗談で返しただけなのに、
「沖田さんが亡くなって、悲しまない人なんていません」
「それはどうかなぁ?」
「本当ですよ。みなさん本気で心配してます」
本当にむかつくよ。
なんで、来たばかりの君にそんなことがわかるのさ?
「君さぁ。あんまりふざけたこと言ってると……」
僕が死んだら、君は悲しんでくれる?
なんて、聞かなくてもわかってる。君は、「どうしてそんなこと聞くんですか?」って、”今”泣くんだ。僕が知りたいのは、僕が君の前から居なくなっても悲しんでくれるのかなってことだから、その答えは望んでない。
どうして、答えを求めるのか自分でもわからないし、素直にそう尋ねればいいんだろうけど、僕がそんなこと言えない性格だってことは自分が一番よくわかってる。
本当は、答えを聞くのが怖いだけ…
だから言うんだ。
今、君が僕を思って泣いてくれるあいだに…
「殺すよ」
ピクリと肩を震わせた千鶴ちゃんは、「沖田さんは、意地悪です」なんていうけど、僕からしてみれば、充分君の方が意地悪だと思うけど…でも、まぁいいや。
「沖田さん」
「何、まだ何かよう?」
「わたし、沖田さんがいなくなったら、悲しいです」
──君は、なんて残酷なんだろうね。
上手く笑えていたかわからないけど、その時、彼女になら少しくらい甘えてもいいかもしれないって、そう思えたんだ。
「ねぇ、そばにいてよ」
《完》
あとがき
もう段々恥ずかしくなってきました。薄桜鬼10周年に合わせて、10年前に書いたものを掘り起こしていますが、なんというかまあ、そうですね。熱意だけで突っ走った作品も読み返してみれば色々と感慨深いものがありますね。