薄桜鬼10周年記念 if パロディ(1)
はじめに
ここでは、オトメイト様より発売中の「薄桜鬼」をもとに小説を作成しています。アニメ版薄桜鬼やファンソフトは未playなため原作寄りです。
版権の二次小説に関しては著作権はゲーム会社にありますが、文章及び、表現内容に関しては当サイト管理者である皐月うしこにあります。リクエスト等は受け付けてません、キャラ違い等の苦情も一切受け付けませんので、ご理解下さい。
基本的に千鶴総受けですが、甘さは濃くありませんので、濃厚な内容をお求めのかたは戻られることをオススメします。
名前変換もありません。
とにかく、趣味の範囲で作成してますので、ご理解お願いします。
小説:もしも新選組に現代物を渡してみたら。
part(1)トランプ
「副長」
「斎藤か、入れ」
襖ごしにかけられた声の主を土方は、部屋へと招き入れた。
「どうした?」
いつもと様子が違う斎藤の姿に書類から土方が顔をあげて振り替える。
「先日捕らえた者から、このようなものが…」
「なんだ、これは?」
「わかりません」
斎藤が差し出したものに見当がつかないと土方は首をかしげて眉を寄せる。斎藤は、無表情のまま何を考えているのかはわからない。
「土方さん入るぜ」
「土方さぁん。ってあれ?一君?」
「斎藤じゃねぇか。何してんだこんなところで」
そこに現れたのは、いつもの三人組。だが、目の前に置かれたものを見つめたままの土方と斎藤は、彼らに見向きもしない。
「無視かよ」
「一体何してやがる?」
原田、永倉が首を傾げれば、「なんだ?それ」と、平助がそれを指差した。
「先日捕らえた者から預かったものだ」
「花札ですかぁ?賭け事は、しちゃいけないんですよぉ?」
斎藤が律儀に返す中、どこからか沖田が現れる。
「ちげぇよ」
わらわらと沸いて出た幹部たちに土方は、舌打ちをして降参だとばかりにため息をはいた。
「さっぱり、わからねぇ」
「見たところ、ただの紙の束のようですが…」
「だから花札でしょ?」
「違うんじゃねぇのか?」
総司の笑顔に、原田は呆れた視線を向けつつも、中央に置かれていた”それ”を手にとった。
「うぉ!左之、いきなり持ち上げるんじゃねぇよ」
「わっ悪ぃ」
バラバラと散るそれらを慌てて拾う原田の手が「これって数なんじゃねぇ?」という平助の声にとまる。
よくよく見れば、赤と黒の二色の模様と4つの紋。斎藤がポツリとつぶやく。
「何かの暗号か?」
「とりあえず分けて見るか」
土方の命令でしぶしぶ幹部が腰をまげた。
「さっぱりわかんねぇな」
「新八っつぁんは、何も考えてねぇじゃん!」
「んだと!?なら、平助。これが何かわかるってのか?」
うっと言葉に詰まった平助をよそに、4つの束に分けられた紙たちを見つめる。
「これは、どこに入るんですかねぇ?」
一枚だけ、どこにも分類することの出来ない紙を眺めながら沖田が呟いた。
「興味なくなるのが早ぇよ」
原田が苦笑する。が、考えててもわかるものでもなく、沖田が腰をあげた。
「千鶴ちゃんにあげようかなぁ」
「待て」
止めるのは、斎藤。
「それは、俺が手に入れたものだ」
預かったんじゃなかったっけ?と、首を傾げていた平助は、「だって、こんな珍しいものあげたら、千鶴ちゃん、きっと喜ぶと思うな」と、笑う沖田にハッと気付く。
「んじゃ、俺も千鶴に渡す!」
「千鶴に似合うのは、これだろ」
「桃が?」
意気揚々と手を伸ばした平助に、原田が赤い桃が1つだけ描かれた紙に口付けた。
「いや、尻じゃねぇのか?」
バカな新八の声。
「わかってねぇなぁ。女は、こういう形が好きなんだよ」
「まっ、千鶴には代表して俺が渡してやるよ」
不敵に笑う原田の手からスルリと紙が引き抜かれれば、土方が部屋から幹部を追い出そうとする。
「ちょっと。千鶴ちゃんに渡すのは僕だよ」
「バカ言え。俺が選んだんだぜ?」
「ずっりぃ。俺も千鶴にあげたい~」
「………」
ギャーギャーと一枚の紙を奪いあう4人を前に斎藤の手が腰の刀に伸びる。
「さ…斎藤!?とりあえず、落ち着けって!なっ」
それに気付いた新八が慌てて斎藤を止めるが、すでに聞く耳を持っていない。
「千鶴は、俺のだ」
怒りのあまりに呟いた斎藤の声は、
「あれ?みなさんお揃いで。何をなさってるんですか?」
と言う千鶴の声にかき消される。
「土方さん。頼まれていたものここに置いておきますね」
繕ったばかりの着物を起きながら土方に微笑みかける千鶴には、取っ組み合ったまま固まる彼らがどう見えるのだろうか。
「みなさん、本当に仲がよろしいですね」
クスクスと笑う千鶴に、「はぁ」やら「へっ?」と言った思い思いの表現で返す彼ら。
「あっ」
千鶴が沖田が捨てたと見られるどこにも属すことない一枚の紙を拾い上げた。
「”とらんぷ”ですね」
「「「「「「とらんぷ!?」」」」」」
「なんだそれは!食えるのか?」
「新八っつぁん…どぅ見たって食えないっしょ。困るよね、こういう人」
叫ぶ永倉に肩をすかす平助。
「千鶴は、これが何かしってんのか?」
「はい。父様が昔、見せてくれたことがあるんです。遊び方は、よく覚えていないんですけど…」
たしか。と、千鶴は全ての視線を受けながら、4つに分けられた紙たちを1つにまとめて、くりはじめる。
「この1枚だけ特別な絵がかかれた札を取り合うんですよ」
そういって、千鶴は混ざった紙の間に「俗に”ばば”だそうです」と、笑いながら差し込む。
「裏返しに1枚ずつ配って、手札は相手に見えないようにするんです。あっ。みなさん輪になってください」
千鶴に促されて輪になる面々。
「隣の人の手札を順番にひいていき、手元にあるのと同じ数の札があれば、その場で捨てます」
千鶴の説明に大人しく耳をかたむける彼らは、先ほどまで言い争いをしていたとは到底思えないほどである。
「そして最後に先ほどのババを持っていた方が──」
「千鶴ちゃんを手に入れられるんだね?」
「へっ?」
突然の沖田の言葉に首を傾げる千鶴。
「あっ…いえ…」
何故そうなる?と問い返したかったが、いつのまにか室内にこもった殺気にタジタジと千鶴は、「負けなんですけど…」と、口に出したが、もう彼らの耳には届かない。
「おっしゃ。いっちょやるか」
「新八っつぁんには、絶対負けねぇかんな」
「なに~?いったな平助」
「てめぇらは、俺には勝てねぇよ」
「副長。お言葉ですが、自分が勝ちます」
「いってくれるぅ」
「ちょっと、僕がいるってこと忘れないでよね」
ニコニコと笑う沖田に導かれるように笑いあいながら手札を持ち上げた彼らは、”千鶴”という名の札を奪いあう。
「やったぁ。千鶴がいた」
平助の声に視線が突き刺さる。
「あっ。平助くん、その札があることは言っちゃダメだよ」
突っ込む箇所が違う気もするが、気にしない。
そしてすでに、平助も時すでに遅し。
「もぉらい」
「ちょ。左之さん!なんで最初に千鶴持っていくんだよ!」
「奪ったもんがちだ。ほれ、斎藤」
「……これだ」
「はずれ~」
「ちょっと、一君?何やってんのさぁ」
もはや、遊び方が違う。
「あの…同じ数の札を揃えるんですよ?」
千鶴の声も届かない。
「千鶴ちゃんがいないんじゃ。何引いても一緒じゃない」
ふてくされる沖田は、
「ほら、揃っちゃったし…」
と、札を一組捨てる。
「まっ。急いだって結果は変わらねぇよ」
土方が沖田の札をとるが、揃う札はなかったようで、そのまま永倉の前に突き出される。
うーんと真剣に悩む永倉に「早くしろ」と土方が苛立たしげに舌打ちした。
「よっしゃぁ。揃ったぜ」
バシッと勢いよく叩きつけられた札と嬉しそうな永倉に、ようやく意味を理解してもらえたと千鶴がパチパチと拍手を送った。
「永倉さん、おめでとうございます」
もちろん、永倉以外の彼らが面白い気持ちになるわけがない。
「千鶴ちゃん。僕には言ってくれないの?」
「えっ?あっ…」
「総司。あまり千鶴を困らせるな」
「なに?一君は千鶴を取れなかったんだから黙っててもらえる?」
ニコニコと笑う沖田と斎藤の間には、熱い火花が散る。
「新八っつぁんは、いいなぁ」
「平助くんも頑張ってね」
素直な平助に千鶴が笑いかける。
「最終的に俺が勝つから、今の内に応援してもらえ」
余裕の笑みを浮かべる土方に
「でも、今は俺の手の中だってことを忘れてもらっちゃ困るぜ」
と、原田が返した。
「ちっ。斎藤、次こそは取れ!絶対取れ!」
「御意」
「んで、僕に頂戴」
「断る」
そうこうしている内に、1人ヤル気のみなぎった平助が新八から札をとって、組み合わせがあったことに肩を落とした。
「ちっくしょお」
「平助くん。それでいいんだよ」
千鶴が声をかけるが、平助はますます落ち込んだ。
「お子様は及びじゃねぇんだとよ」
笑った原田が平助から札を引いて札を捨てる。
「んじゃ、次は──」
「これだ」
「ちっ」
斎藤がわずかに頬を緩ませると原田が舌打ちをして、平助が笑った。
「左之さんも取られてやんの~」
「原田さんもそれでいいんですよ」
なんとか遊び方を理解させたくて、千鶴が声をかけるが、何故か原田もがっくりと肩を落とした。
「いざ、勝負」
「千鶴ちゃんは、僕がもらう」
この二人に関しては口が挟めないのであろうか、千鶴が困惑していると、勘違いした土方に頭を撫でられた。
「あの…」
「じきに俺がもらってやるさ、心配すんな」
「ちょっと、土方さん。千鶴ちゃんに触らないでくれる」
笑顔の沖田が突き出した手札に土方は、眉を細める。
「千鶴は?」
「さぁ?」
いつのまにか勝負のついていた斎藤と沖田に一瞬視線をやるものの、土方は札を引いてチッと舌打ちをした。
「土方さん。おめでとうございます」
千鶴がパチパチと手を叩くが、放り投げられた札は苛立ちを含んだ音をあげる。
そうこうしている内に手持ちの札が無くなっていき、ついには最終局面を迎える。
「千鶴、千鶴、千鶴ぅーー」
これだぁっとすでに札が無くなった永倉の変わりに、千鶴を持った土方から平助が札をひく。
「どわぁ!ちっくしょう!負けたぁ」
「…平助くん」
それは、勝ったんだよ。と、千鶴は声がかけられなかった。
「おっ。平助もあがりか?」
なっはっはと笑う永倉のもとに、落ち込む平助が向かっていた。
「新八っつぁんは、うらやましいよ」
「千鶴は、誰にも渡さねぇ」
「土方さん。そういってられんのは、今の内だぜ?」
その言葉通りに原田が千鶴を引けば、再び緊迫した空気があたりを漂う。
くるくる、くるくる。
引いては引かれてを繰り返す、1枚の札。どこにも俗さないがゆえに、捨てられることもなく、ただただ流される。まさに新撰組における、千鶴のようなその札は、奪い奪われ翻弄される。
「すっげぇなぁ」
「にしても、熱いなぁ」
白熱する4人に平助は、感嘆の声をあげるが、永倉がパタパタと胸元をあおったため、千鶴は札を奪いあう彼らから顔をそらした。
「そうですね。窓でもあけましょうか」
笑顔で千鶴が窓を開けた。
「っ!?きゃあ」
「千鶴!?」
「風間!?」
叫び声を上げた千鶴を抱き締めるのは、風間千景。
「きさまらは、呑気に何をしている?」
純粋な質問だったが、それに答えてくれるほど、新撰組は甘くない。
「千鶴から離れろ!」
「っ!?平助くんっ」
ぶんっと風をなぐ刀の音に千鶴が声をあげる。
「平和そうだな」
風間が呟いた声は、千鶴にしか届かなかった。
「今日は、気分がいい」
「えっ?」
「また改めて迎えにくる」
覚悟しておけ。と、風間が千鶴を離した。姿を消す際になぜか風が部屋を横切った。
「あー」
「ちくしょう!やられた」
「……風間」
「まじかよ」
4人の愕然とする声に顔を向ければ、散々と巻き上げられた札が部屋のいたるところに散っていた。
しかし、千鶴と名前の付けられた札だけは何処にもなく、結局、勝負の着かなかった新撰組の面々は、「妥当!風間千景!」を掲げ、日々の日常へと返っていく。
《完》
おまけ
「風間さま。それは一体…」
何かを訪ねようとした天霧九寿は、「見てわからぬか?」と、笑う風間に驚きに目を見開いた。
「自分には、よく…」
風間の笑顔すら、めったに見れないというのに、わかるわけがないと天霧は、内心思ったが、「千鶴だ」と、再び笑う風間に首を傾げることしか出来なかった。
「お言葉ですが、それはどう見ても…」
「千鶴だ」
「…はぁ」
どこからどうみても、変な紋様が描かれた札にしか見えないのだが…天霧が困ったようにため息を吐くのを横目に、風間はそっと”千鶴”に口付けた。
《完》
あとがき
なんといいますか、完全なる妄想と趣味で突っ走っていたようで、色々と読みにくい点が多く申し訳ありません。10年前の私の文章力がなんだか、書き直したい衝動に駆れて仕方ないです。当時の癖が露呈していますね・・・恥ずかしい。
少しでも皆様の妄想のたしになれば幸いです。